高速CWによる流星散乱通信の概要

インターネットで入門 HS−CW

高速CWによる流星散乱通信の概要

JF3MXU 西川 敏弘

(協力 JH3OII/AJ1A 中村千代賢)

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高速CWについて皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?。

おそらくCWファンの方でも人間の能力を超えたモールス通信を機械にさせる必要性に疑問をお持ちだと思います。しかし、超高速CWを流星の尾で反射させて交信を楽しむ流星散乱通信の世界では、パソコンを用いた高速CWが能率的で不可欠なものである事を知りました。

今回は、CQハムラジオ誌には掲載されなかった部分を中心にHS-CWのアウトラインをまとめました。これをお読みになり興味のある方はCQ誌1998年7月−9月号を参照ください


流星散乱通信について皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?。

おそらく私たちが想像するのは、「主に6mSSB等で行われるQSOで、流星群を必要とし、いつでもできるものでなく、流星の情報など天文学の基礎知識が必要」ということではないでしょうか。

ところが、ヨーロッパや北米では2mを中心に高速CW(HS−CW)による流星散乱通信が中心で、このモードでは多くのハムが流星群を待たずにいつでも交信をしているということを知りました。

今回は、ヨーロッパはもとより、北米でも静かなブームを呼びつつあるこれら「流星散乱通信(MS=Meteor Scatter)」の世界をインターネットで提供される各種情報、ソフトウエアなどを紹介していきたいと思います。

HS−CWによる流星散乱通信の基礎知識

 ここではインターネットで入手した入門的な情報をまとめて紹介したいと思います。

 各種検索エンジンで国内のホームページを「流星散乱通信」「流星バースト通信」というキーワードで検索すると、検索結果は50MHzのフォーンのものがほとんどで、CWがあったとしても高速CWというものは特に見当たりません。特に国内のページで印象的なのは、「HRO」という表現が多く、これはアマチュア無線の電波を利用した天体観測で天文学の専門がバックグラウンドにあることは間違いないでしょう。大学等での研究論文も多く、私たちにも参考になると思います。

一方、ヨーロッパで行われている2mでの「HS−CW」をキーワードとすると(執筆時点では)該当内容を日本国内で探すことができませんでした。逆に海外の検索サイトではこれらが多くなるのです。流星散乱通信では2mより6mの方が技術的に良い結果が得られるはずと思っていた私は不思議に思いました。このことは調べていくうち、6mSSBによる流星散乱通信は日本での実践が国際的に先行している事や、歴史的な背景がわかってきました。

その理由として、ヨーロッパでは6mバンドがハムに開放されたのが、最近であることが挙げられます。

また、6mバンドの範囲や内容も国別に違っています。たとえばスポットのようなバンド幅のところや、許可になってない国さえある現状です。

そのため、ヨーロッパでは、流星散乱通信に数十年の歴史があるといわれますが、流星散乱通信は2mで始まりました。

そのため、電波形式は反射時間などの諸問題からCW、それも高速CWというようになっていったのです。(SSBの流星散乱通信との違いは、SSBでは高濃度の流星の尾<バースト>を使用するのに対し、HS-CWでは低濃度の尾で数分の一秒のチャンスを使います。)

北米では、HS−CWの歴史は浅く、ヨーロッパのものを参考にしながら広まったようです。また、北米での6mのアクティビティそのものが我が国と比較にならぬ程低いという事情もあるようです。6m対応のHF機が安価で販売されるまでは6mのオールモード機を所有しているハム人口が非常に少なかったということも関係しているように思えます。したがってJAでは6mでのHS-CWの発展も期待できると考えられます。(考えようによっては流星散乱通信だけでなく他の通信でも応用できそうです)

流星散乱通信の基礎知識

 ここではインターネットで入手した入門的な情報をまとめて紹介したいと思います。

KD5BUR Jim McMasters氏のホームページは、URL http://www.qsl.net/kd5bur/にあります。

 ここでは、衛星散乱通信に興味を持った人たちに対して、基礎的なことがいくつか示されています。また関連リンクも充実していますので、これらで調べた情報をまとめてみたいと思います。

通信のチャンスはいつでもあるという理由

ほとんどの流星は大概砂粒ほどの大きさの小さな粒子です。 我々の太陽系の形成から残留したものや、すい星などが放り出した天体からの物体も含まれます。 地球が濃度の高い宇宙の残骸を通り過ぎるとき,それらは流星群になります。

 流星散乱高速CW通信の秘密とは,そんな宇宙の残骸は地球に常に降っているということです。 地球は一年に何百トンもの宇宙物体を一掃しているのです。 一日に120億個以上の流星が大気圏に突入しています。その流星達のほとんどがスポラディックというかランダムであり群とよぶにはふさわしくない数なのです。これらの大半のランダムな流星でVHF DXが好きな時間に楽しめるというわけです。

 流星が大気に突入し、燃え始めるのは速度により高度100〜110KMくらいです。これは電離層でいうE層とおよそ同じ高さになり,通信距離もE-スポのそれと似通っています。 突入速度が速いと燃え尽きるのが速く,その分高度が高くなります。

流星が焼失するとき高濃度と低濃度の尾を引きます。 高濃度の尾は大抵電波にとって金筒状の金属反射器のような働きをする電離作用を起こします。これらの尾により電波は非常に強く反射され、その時間は一分間以上のこともありSSBで複数のQSOができることもあるくらいです。しかし残念ながら高濃度の尾やその「突発性」は流星群のピーク時を除いては稀なのです。

 一方,低濃度の流星の尾は(一般にpingと呼ばれる)非常に短時間の反射をするにとどまります。 電離する尾は電波を反射するよりむしろ散乱します。 低濃度の尾は数分の一秒にとどまり言葉の1音節以上もの時間反射する事自体すら稀ですが発生頻度は非常に高いのです。 現に今でも頭上で多数の尾が現れ,消えていっているのです。

流星の尾で早く焼失する低濃度のものは2メーターで流星散乱通信する初期のハム達が気付きました。 テストには人間の解読が追いつかない程の高速でキーイングするCWが使われました。 当時はCWを先に録音し,それを少なくとも50%スロー再生して解読していました。 そうしているうちにこれらの低濃度で短時間の流星の尾でも高速信号の伝達には使えることがわかってきたのです。

高速CW通信に必要なもの・求められるテクニック

1.無線設備 無線機については市販の無線機でかまいません。(HS-CW専用というものはありません)ただし、高速CWではCWのキージャックを使い搬送波を断続するのではなく、マイクジャックに2000Hzのトーンを入れる方式ですのでSSBモードが送信できるものが必要になります。

 使用される周波数は6mと2mで、特に2mが良く使われるようです。 意外でしたが、良い条件では25w程度の電力と八木アンテナでも可能ということですからCWのできる3アマの以上の方であればチャンスがあります。

実際KD5BURの無線設備は144MHzで100Wのリニアを使い、クッシュクラフト17B2八木アンテナを使用しているようです。

 http://www.nitehaawk.com/rasmit/hsms71.html によれば「流星散乱通信に流星群などいらない;今晩か明朝スケジュールを組めば650〜1000マイル(1000km〜1600km)圏なら95%確立でコンタクトできるだろう」とありますが、日本でのこれらの実験はあまり活発ではないようです。

2.高速でCW符号を送信すること。これは、交信を行う電波が非常に短い反射の時でも伝達されるからです。高速送信もコンピュータ利用が一般的です

3 到来している高速CW受信機能を持ち、記録する機能が必要。記録機能は、いくつかの方法で実行できて、データが再検討できるようにする必要があります。

ここでの高速CWはリアルタイムに人間が解読できることを求めるものではありませんが、かといって文字に解読するというものではありませんので通常のCW交信ができる程度の能力は必要です。

4 補助機具を使いこなす工夫をすること

 モールス記号として聞こえるように、または視覚的にわかるように表現できること。

主な方法は、CWスピードを人間に解読できる程度に速度を落とすことである。

別の方法は、データに含まれている 短点と長点を視覚的に表示するということです。

HSCWの装置には、いくつかの方式があります。黎明期から使われた方式には、テープレコーダの改造版で,録音したものをスロー再生できるようにしたもの,そして高速CWを送るためのメッセ−ジキーヤー(変調CWにするためのAF発信器付き)を使用したようです。これらの応用技術に興味あるかたは、N1BUGのホームページURL http://www.qsl.net/n1bug/tech/hsms-cir.htmlをご覧ください。

最近では、パソコンのサウンド機能等を利用したソフトウエアが多く存在します。

HSCWの歴史はそれほど新しいものではなく、ヨーロッパでは約20年の歴史を持ちHSCWによるグリッド・ハンティングがポピュラーになっているようです。 なかには長年にわたって今までに651グリッドと交信したというハムもいるぐらいです。

詳細は、URL http://www.nitehaawk.com/rasmit/hsms70.html. 参照

さらに驚くべきことは、これらが一部のパイオニアハムによる技術的研究の段階から、今ではHS-CWのコンテストの実施なども行われているようです。

http://www.qsl.net/n7stu/hscw.htmlにはコンテストの詳細(最近では98年5月2−3日に実施など)が紹介されていました。ただし、これはこの本が発売になる頃には最新情報に更新されているはずです。参考までにコンテストの目的は「北アメリカの練達なHSMSオペレータの発達を促進する」とあり、この様子はまるで私たちが過去に「新バンドを得た時」を思い出させられます。事実このHS-CWはVHF−DXの新しい形であり、ハムにしか使われなくなったCWの可能性を再認識するものです。

ここまで読まれた人は 「CWでなければならないはずがない」と思われるかもしれません。パケットなどデジタル通信にすると、信号が完璧でないとQSOは成立しないことになりますので、どうしても信号の一部でも解読ができるCWの活躍となるのです。

この部分は導入部分です 詳細は雑誌CQ HAM RADIOの短期集中連載を


記事共同執筆者JH3OII中村千代賢氏のホームページ ぜひご覧を


平成10年9月更新

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西川敏弘 jf3mxu@hi-ho.ne.jp