9月16日 (木)  神戸紀行I

「神戸のお好み焼き」

僕が27歳の頃に知ったお好み焼き店「万味(まんみ)」さんは、板宿駅を南方へ2kmほど行ったところにある。

「最近はホンマもんのどろソースを使う店が無くなって来たなぁ・・」と言っていた頃でもあったが、ここ万味さんはどろソースも焼き上げる女将さんの腕も本物で、下町のお好み焼きというよりは、わざわざ昭和の古き良き時代を演出したかのような佇まいにも思えた。

神戸では下町というものが、須磨区より西に殆ど無いため、過去に神戸を訪れ万味さんへ連れて行った来賓や知人には「下町で西神戸一のお好み焼き」といった紹介を僕は敢えてしていたくらいだ。
(東神戸には「さいもと」さんというお好み焼き屋があったが、十数年前に僕の知る女将さんは他界したのでその後は知らない)


万味さんで最後に食べたのが今年の8月初旬だった。
月曜定休、昼は2時まで、夜は5時〜の営業なのだが、今月も足を運んでみると夜の7時なのに閉まっていた。
というよりは店の戸が少し開いていて、中の電灯はつけっ放しという状態で、少し覗いてみたが誰も居らず、ソースの匂いだけが漂っていた。

「なんだ、今日は特別に閉めたのかな?」と思い、その日は仕方なく帰ったのだが、気になって5日ほど経ってから電話を入れてみた。

(今まで電話などしたことはない)
電話に出たのは当の女将さん。
「もしもし、こないだ休んでたけど何かあったん?」と尋ねてびっくり。
「私なぁ、8月に軽い脳梗塞患って、ちょっと間休んどんねん」と聞かされた。
(僕が行ってすぐの出来事だ)

その後、月木と定休にして昼間だけでもと思い営業を再開するも、すぐに気落ちして肉体的にも精神的にもすぐ疲れてしまうから「どないしょーかと思とんねん、休んどってもすることないし・・・困ったわ」とも言っていた。

僕は「無理せず腕が鈍らん程度にじっくり休養してから、ぼちぼちと始めたらどないですか?これからお昼だけでもええやん」と励ますつもりで言ったが、内心は(あのお好みが食べられへんようになったら困る)というのが正直なところだ。

「自分だけが年齢を重ねている訳ではない」

いつもそう思いながら生きてはいるが、もう二度と戻らなく、味わえなくなったものも数え切れぬほど増えたことに、ある種の寂しさを覚えるようになって来た。

仕方ないかぁ・・・と。

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